日経新聞にふれあいの里が掲載されました

ふれあいの里で百歳体操

ウルグアイ・ラウンド対策施設、19年目の現実
平成の開国

2016/2/6 2:00
                                          (日本経済新聞 電子版から転載します)
 北海道のほぼ中央部、JRの最寄り駅から車で15分ほど。雪に埋もれた田畑の中に、ひときわ目立つ大きな三角屋根が見えてきた。温浴施設とレストランなどが一体になった複合施設「滝川ふれ愛の里」。18年前に26億9300万円を投じて建設され、その約半分には、ガット・ウルグアイ・ラウンド合意後の国内農業の強化策として拡大していた国の農業予算が充てられた。当時の国会で野党から無駄な農業対策の代表例としてあげられた施設はいま、どうなっているのか。ウルグアイ・ラウンド対策施設の19年目の現状を取材した。
北海道滝川市の「滝川ふれ愛の里」
北海道滝川市の「滝川ふれ愛の里」

平日午前10時の入浴施設の開館を数人の高齢者がロビーで待っていた。「いろいろな浴槽があって気に入っているんだよ。滝川に住んで17年、ずっと通ってるよ」(元公務員、75歳の男性)、「5万円を超す1年入浴利用証を買って週5回は来てるわ。シャワーも広くてゆったりしているし」(主婦、63歳の女性)――。平日は施設利用者の8~9割は滝川市近郊の住民。その多くを60歳以上の高齢者が占めていた。

1993年、当時の関税貿易一般協定(ガット)の多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)で、政府は関税ゼロでコメを一定量輸入する「ミニマムアクセス」を受け入れる決断をした。国内のコメ農家は初めて、海外産のコメとの競争を迫られることになった。国内農家の競争力を高めるためとして、94年には総額6兆円にもなる農業対策費が決定した。

北海道のコメの生産地である滝川市でも危機感が広がっていた。滝川市農政課は当時、複合施設を設けることにより「グリーンツーリズム」の実現を目指していたという。「都市住民が訪れる拠点を造り、そこで地域の農産物に触れることで滝川のファンになってほしい」(和田英昭主幹)と考えていたそうだ。

掘り当てた温泉資源を活用すれば、都市から人が呼べるはずだ。人が集まる施設を造れば、農村の所得改善につながる。こうした期待もあったという。だから、単なる温浴施設だけでなく、滝川産の農産物で作ったメニューを提供するレストランが必要になり、地元の農産物を売る直売所も欠かせなくなった。さらには、特産品のそば粉を使ったそば打ち体験の施設まで造ろう、宿泊施設も必要だ――。施設の規模は当初の想定からどんどん膨らんでいった。

「滝川ふれ愛の里」のそば打ち施設

「滝川ふれ愛の里」のそば打ち施設

ウルグアイ・ラウンド対策費の膨張が疑問視されていたなかで、滝川ふれ愛の里は1997年6月にオープンした。グリーンツーリズムを実現するため、近隣農家が管理組合をつくり、施設内の直売所の運営に参加した。レストランでは地元産の農産物をたっぷりと使った「ふるさと薬膳」や、滝川のそば粉を使った「生粋そば」などのメニューもそろえた。オープン当初はそれなりに話題を呼び、1年を通じて営業した1998年度は32万人を集客した。

だが、風向きはすぐに変わった。きっかけは利用者側だけでなく、地域の中での競合にもあった。1999年、同じ滝川市内に当時の建設省が整備を進めていた「道の駅」ができたのだ。幹線である国道12号線沿いにあり、田畑の真ん中にあるふれ愛の里よりもアクセスが良い。

道の駅に流れていったのは都市からの利用者だけではない。その集客力を追って、農家の管理組合は運営する農作物直売所を道の駅に移した。ふれ愛の里のオープンから5年目のことだった。

「滝川ふれ愛の里」の農産物の直売所

「滝川ふれ愛の里」の農産物の直売所

ふれ愛の里で現在の直売所を運営するのは滝川市が過半を出資する施設運営会社、滝川グリーンズ。この日も、滝川産のコメや野菜類などが置かれていたが、訪れる人はまばらだった。施設長を務める滝川グリーンズの岩田伸次専務は「正直に言えば、平日はほとんど売れないんだ」と明かす。レストランからはいつのまにか、ふるさと薬膳も生粋そばも消えていった。

温泉のある類似の施設が周辺に増えるなかで、利用者数も減少傾向が続いている。2014年度の温浴施設の利用者は延べ22万6000人で、開業当時より10万人ほど減った。その利用者も多くは銭湯代わりに訪れる地元の住民だ。最寄りの駅との間を結ぶ路線バスは1日わずか3便だけ。北海道の観光地を潤している外国人観光客の増加の恩恵も、雪原に独り建つふれ愛の里には巡ってきていない。

農業振興の役割を担うために設けた、そば打ち体験施設はどうか。一番にぎわうのは、新そば収穫期である秋でも、年越しそばの需要が増える年末でもなく6~7月なのだという。なぜか。「中学校の体験授業があるからだ。年間で札幌や旭川から30校ほどが来る」(岩田専務)。そば打ち体験の利用者は年間に1000人ほど。うち600人が授業で使う中学生。個人の利用は多くはないという。

26億円を費やして、滝川のグリーンツーリズムは実現したのか。「農家も規模拡大を重視するようになり、地元の直売所に運んで売りたい農家は減ってきています」と岩田専務は話す。「グリーンツーリズム? その成果はだんだん小さくなってきているのかなあ」

温浴施設にやってきた76歳の男性はこの5年間、隣の新十津川町から毎日、軽自動車で通っているという。「すっかり、サウナがくせになっちゃってね」。農業にも携わってきたというその男性にとって、サウナは何よりの楽しみなのだ。

地域農業を支えてきた功労者を癒やす施設として――。ウルグアイ・ラウンド対策の農業予算は滝川では、当時の想定とは異なる形で、いまに生きているのだろうか。

(札幌支社 宇野沢晋一郎)

ABOUTこの記事をかいた人

清水 まさと

●1956年 由仁町生まれ、北海道大学水産学部卒 ●活動歴 啓南中島連合町内会事務局長、 心身障害児(者)親の会会員 ●現在 党北空知留萌地区常任委員、空知町1区町内会総務 ●家族 妻、(娘、息子は就職)